【ドイツ 多文化共生共助型防災事業の事例】~ドイツ・デュッセルドルフの在独邦人高齢者支援団体「TAKENOKAI(竹の会)」を訪ねて
はじめに
CWS Japanは、団体ミッションの一環として災害弱者となりうる外国人を対象とした支援を目的に多文化共生共助型の防災事業に取り組んでいます。外国人とりわけ高齢者の災害時における脆弱度合いや支援のありかたを考慮に入れながら、防災という観点で平時からどのように活動していくべきなのか?参考事例として、筆者が今住んでいるドイツのデュッセルドルフ市にて在独邦人高齢者の支援をしている団体「TAKENOKAI(竹の会)」を訪ね、理事のフィッシャー平松さん(日独の看護師資格所有)に活動についてお話を伺ってきました。
「TAKENOKAI(竹の会)」発足の背景 ~デュッセルドルフ市在住邦人と高齢化の問題~ ライン川沿いに位置するデュッセルドルフ市は、人口が最も多いノルトライン=ヴェストファーレン州の州都で、その地の利を生かして輸送網が発達し古くから鉄鋼業も盛んだった地域です。戦後ドイツの首都がノルトライン=ヴェストファーレン州のボンに置かれたこともあり、デュッセルドルフには1950年代から日系企業が進出し多くの日本人が暮らしています。居住邦人数は6,890人(2021年末現在)とドイツ国内で一番多く、同市居住外国人の4.1%を占めています(第9番目)。
同市在住の邦人は、主に1)日系企業の駐在員とその家族、2)1950年代以降に移り住んだ者(国際結婚、医療従事者、経済的な理由等)、3)文化・芸術、学術分野で活動する者、4)留学生、の4つのグループに大別されています。ここ10年で浮き彫りになってきたのは、ドイツに永住する2)と3)グループに属しドイツに永住する邦人の高齢化です。
置かれている状況は様々なものの高齢化に伴い生じている共通の問題として、家族との別離、認知症等の病気を契機に、言葉が母語よりも不自由することや母語でコミュニケーションができる身内がいないこともあいまって、公的支援から取りこぼされる、孤独、貧困、母語による介護や医療サービスが十分に受けられない、そして精神的な不安といったことが挙げられています。
こうした中、長くデュッセルドルフに在住していた日本人が主体となり、2007年に在独邦人高齢者支援を目的とする公益社団法人「TAKENOKAI(竹の会)」が発足しました。現会員数は89人で、プロテスタント教会系の社会福祉事業団(デュッセルドルフ)ディアコニーといった地域の社会福祉団体と共同事業を実施したり、在独医療従事者ネットワーク(JAMSNET)、日本人医療従事者・邦人高齢者支援の全国組織「Dejak友の会」(2012年発足)といった関連団体/組織との連携を図りながら、同市を中心に邦人高齢者の支援活動を展開しています。
「TAKENOKAI(竹の会)」活動内容
「TAKENOKAI」の活動の柱は、①邦人高齢者へのアウトリーチ活動、②在独邦人支援者の育成、そして③地域の社会福祉団体との協働です。
図示の通り、①においては、週一の相談事業(情報提供含む)、寄り合いカフェ運営、行政機関への諸手続き同行、高齢者をテーマとした講演会やイベントを開催することで、邦人高齢者の支援ニーズを可視化しています。明らかとなった支援ニーズには、新たな事業を立案して③を通して対応したり、最近は日本人の介護・医療従事者をドイツで育成する職業訓練や、日本人学校でボランティアについての授業といった②の活動も行っています。
地域の中心的な社会福祉団体との連携により、自団体にない資源を活用できることで活動の幅を広げていることや(例:ディアコニーからは、相談事業や寄り合いカフェの場所の無料提供、ソーシャルワーカーによる相談者のスーパーバイズ、教会への寄付金からの資金分配といった援助、Dejakを通じたSilbernetz e.V. から日本語による高齢者ホットラインの斡旋等)、ドイツにおける在独邦人高齢者向け支援を担う人材の育成をしている点が特徴といえます。
さいごに
~日本での多文化共生共助型防災事業における気づき – 当事者エンパワーメントとネットワーク~
日本と比べて、ドイツはより多くの難民・移民を受け入れドイツ社会への統合を進めています。しかしながら、ドイツ社会においても外国をルーツとする特に少数派に属する高齢者は、高齢者の一般的な問題である心身の衰えに加え、年金受給額が不十分であったり、言葉のハンデに起因する公的支援へのアクセスが容易でないこと等から生計上の基盤が比較的脆く、諸々の理由から家族間で母語でのコミュニケーションが取れないといった頼れる身内がいない、さらに同郷コミュニティからの支援も得られないといった複数の要因が絡み合って貧困状態に陥りやすく、有事には脆弱な立場に置かれやすいのだということを今回改めて認識しました。
外国人高齢者の災害時における脆弱度合いや支援ニーズをふまえた上で平時に取り組む支援としては、当事者とつながりながら専門家や支援団体と連携していくことが欠かせません。在独邦人自らが主体となって支援をしている「TAKENOKAI」の活動が、CWS Japanが取り組む多文化共生共助型の防災事業に示唆していることは、当事者によるエンパワーメントと地域の中心的な社会福祉団体/組織や専門家とのネットワークの大切さだと思います。
在独邦人による母語での支援により、支援側が当事者意識を持って要支援者のニーズを汲み取れるだけでなく、要支援者ともつながりやすく、また“ドイツ永住の在独邦人コミュニティ”内で母語による支援者人材という社会的資源も活用でき、異郷の地で在独邦人間で助け合おうという連帯感が生まれやすいようです。加えて、外国人高齢者の支援ニーズの顕在化、支援拡充や社会・政府へのアドボカシーといった点からは、地域と全国レベルにネットワークがある関連支援団体や介護・医療従事者をはじめとした専門家による支援や協働が必要となります。
ことのことから、災害時に脆弱となりうる外国にルーツのある人たちを取りこぼさず支援の手を差し伸べていくためには、当事者である彼/彼女らをエンパワーメントして連帯ができるようにし、地域の中心となる社会福祉団体とネットワークを築いて協働していかれるようなサポートをしていくことがCWS Japanに求められている役割であると、今回のインタビューを通して改めて気づかされました。
<参考情報>出典:
- “LANDESBETRIEB IT.NRW STATISTIK UND IT-DIENSTLEISTUNGEN“
(https://www.it.nrw/auslaenderzahl-nrw-um-23-prozent-auf-282-millionen-gestiegen-107120) - “Bevölkerungsstand: Amtliche Einwohnerzahl Deutschlands 2021“ STATISTA
(https://www.destatis.de/DE/Themen/Gesellschaft-Umwelt/Bevoelkerung/Bevoelkerungsstand/_inhalt.html) - “Bevölkerung Migration und Integration“ D_STATIS Statistisches Bundesamt
(https://www.destatis.de/DE/Themen/Gesellschaft-Umwelt/Bevoelkerung/Migration Integration/_inhalt.html;jsessionid=F4E9796E09C6275FC46A0BF7B9A1EBFF.live712)